Tuesday, December 31, 2013

【短編小説】 facebook ゴースト




 あたしの名前は、飯根都和。 あら、読み方が分からない? 飯根都和と書いて、「いいね とわ」 と読むの。 お気に入りの名前なのよ。


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 僕の名前は、東高久音。 あれ、読み方が分からないって? 東高久音と書いて、「とうこう くおん」 と読むんだ。 ちょっと珍しい名前かもしれないね。


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 あたしの仕事を知りたい? 本当は言いたくないんだけど・・、いいわ、教えてあげる。 あたしの仕事はね、依頼主の代わりに facebook で 「いいね」 を押すことなの。 今現在、依頼主は一人しかいないんだけどね。

 その依頼主の彼から受けた仕事は、好きなアイドル達の投稿に 「いいね」 を押すこと。 簡単な仕事だって思ったかしら? 確かにそうかもしれないわね。 でもね、昔は多くのアイドルがいたから、「いいね」 を押すのもそれなりに大変だったのよ。

 ただ、今では、投稿を続けているアイドルはたったの一人。 時代は変わったわ。

 あれだけ人気を博していた facebook から人が離れて、もう何年が過ぎたのかしら。 外界との接触を断っている あたしには関係の無いことなんだけどね。

 依頼主からは、彼の好きなアイドル達が投稿している限り 「いいね」 を押し続けてくれと言われている。 だから、あたしは 「いいね」 を押す。

 この仕事が終わるのは、「いいね」 すべきアイドル達の投稿が無くなった時。 このペースだと、まだまだかかるかもしれない。 報酬は毎月オートマティックに振り込まれている。 あたしにとっては申し分の無い仕事よ。


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 僕の仕事を知りたい? そうだね・・、別に教えても構わないよ。 僕の仕事はね、依頼主の代わりに facebook 上で投稿を行うことなんだ。 今現在、依頼主は一人しかいないんだけどね。

 その依頼主からは、誰かが 「いいね」 をしてくれている限り投稿を続けてくれと言われている。 挨拶や、日常的な事、ネットで拾ってきた写真なんかに適当なコメントを付けて投稿しているだけで構わないって。 もうどれくらい続けているかな。

 時代は変わったよね。 昔の facebook は、投稿すれば数百人が 「いいね」 を押してくれたよ。 依頼人はとても人気のあるアイドルなんだ。

 でも、今では 「いいね」 を押してくれるのは、たったの一人だ。 しかも、ずっと同じ人。 よほどのファンなんだろうね。 そういう状態が何年続いてるかな。 でもまあ、引き籠りの僕には関係のないこと。

 彼女からは、「いいね」 を押してくれる人が一人でもいる限り、ずっと投稿を続けてくれと言われている。 このペースだと、まだまだ続けないといけないだろうけど、彼女の代わりにファンサービスができる僕は幸せ者だよね。

 さてと・・


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 今日も投稿があったわ。 「おはよう♥」 って、それだけだけど。

 はい、「いいね!」 っと。


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 今日の投稿は 「おはよう♥」 だけでいいかな。

 あ、さっそく 「いいね」 が付いてる。


 そうそう、今日は大晦日だったんだ。 2052年12月31日。 そう言えば 「facebook 大晦日」 と呼ばれた日があったっけね。 確か・・ 2022年12月31日だ。 facebook から、ほぼ全てのアクティブ・ユーザーがいなくなったと報告された日だ。 「facebook の終焉」 とか言われて、ちょっとしたニュースになったよね。 とても寒い日だった。 あれからもう 30年が過ぎたのか。

 ・・という事は、今のこの仕事も30年以上続けているってことだ。 いつまで続くのかな。 きっと、この先もずっと続いていくんだろうね。 これは僕のライフワークだと思うんだ。

 報酬は無いけど、大好きなアイドルの為、そしてその投稿に 「いいね」 してくれる大切なファンの為に一生を捧げられる仕事を見つけた僕は幸せ者だよね。

 本当に本当に、僕は幸せ者だよね。



 (了)




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