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Monday, October 5, 2015

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0004




[前回 0003 はこちら]


 目が覚める。

 四角い部屋の中。四角いベッドの上。クリーム色の天井。見慣れない景色。

 ・・・・・。

 ・・・・・?

 ああ・・

 そうだ。

 ここはバンクーバーなんだ。

 寝ている間にたくさんの夢を見たような気がする。どんな夢だったのかは思い出せないけど、いくつもの事が同時に起きて頭がグルグルしている感覚だった。ひとつの長い夢だったのかもしれない。何個かの夢を重ねて見たのかもしれない。色々な場面、色々な人物が次々と現れては切り替わっていった。高熱にうなされている時や、大きなイベントで脳が興奮している時に見るような、濃厚で圧縮されたグルグルした感じの夢。そんな夢だった。

 ベッドから出て、うっすらと明りの洩れる薄緑色のカーテンを開ける。道を挟んだ向かい側の建物や家が見える。その形は、ああ、なるほど、日本のものとは違って西洋的だね。まあ、そりゃそうだよなって思うけど、日本にある西洋的な家ともまた違う感じがする。もっと、そう、何と言うか、景色になじんでいる感じ。
 眼下には通りを歩いている人々の姿が見える。この部屋は2階にあるのか、と改めて実感する。道行く人たちは色とりどりのコートを着ている。寒そうだな。
 上を見上げる。綺麗な青空。その青い色の中に浮かぶ少しばかりの白い雲。
 窓を開けてみる。ひんやりとした空気が入ってくる。やっぱり寒い。

 今日はリチャードとジョニーがバンクーバー市内を案内してくれるって言っていた。楽しみだ。
 初めて訪れる街。初めて出会う人々。美しい朝。美しい街。語学留学。カナダ。バンクーバー。これからの3週間。本当に本当にワクワクする。

 さてと、それではまず朝食を食べに行こう。

 キッチンに行く。良い匂いがする。リチャードとジョニーが既にテーブルに座っている。ホストマザーのジェニーは流し台の近くに立ってソーセージを焼いている。
 みんなに「おはよう」を言って僕も椅子に座る。ん?あれ?そう言えば、なんでジョニーがこんな早い時間にいるんだろう。彼はこの家に泊まったのか?
 ファーストフードでアルバイトをしているという長女のエミリーは今朝も姿が見えない。家に帰って来なかったのだろうか。どういう感じの子なのだろう。気になるよね。てか、ホームステイ先の家に20代の女性が住んでいるなんて、ちょっとドキドキするじゃんね。これって、あれでしょ?出会った当初は留学生とそのホストファミリーのひとりとして普通に接していたふたりであったが、ひとつ屋根の下、一緒に食事をしたり遊びに行ったりしているうちに相手のことが少しずつ気になっていることに気付く。いつしかふたりはお互いを意識し合うようになり・・ そして・・ そして・・ っていう、あれだ。むふふ。
 でもまあ、そういのって、あれだよね。あれあれうるさいかもだけど、妄想だ。実際は小説とかドラマの中でしか起こり得ないんだろうね。
 あ、そうそう、昨日も言ったような気がするけど、僕は他に気になっている女性がいる。カナダ人でも日本人でもない。フィリピンに住んでいるフィリピン人の女性。実際にまだ会ったことはないんだけれども、今すぐにでも会いに行きたい女性。でもなかなかフィリピンには行けないよなーって思う。今僕はカナダにいるし、なによりも英語を勉強したいからね。なーんていう言い訳。会いに行かないことに対する言い訳。できるかもしれないのに、しないことに対する言い訳。会いに行き「たい」では、いつまで経っても会いに行けないか。ああ、彼女は今いったい何をしているのだろう。

 料理が運ばれてくる。ソーセージにハムに目玉焼き。コーンポタージュスープ。そして、平たい皿に乗ったごはん。色とりどりのサラダもある。美味しそうだ。コーヒーの芳ばしい香りもする。
 ジェーンによると、エミリーは一旦家に帰ってきたんだけど、また早朝からバイトに行ってしまったとのこと。でも今夜は会えるみたい。じゃあ、それまで楽しみにしていよう。

 料理はどれも素晴らしく美味しかった。リチャードとジョニーの喋り方は相変わらずゴニョゴニョしていて聞き取りにくいけど、昨日会ったばっかりの時に比べたら、なんとなく聞き取れているようにも感じる。少しゆっくり目に喋ってくれているのかもしれないけど、昨夜バーで色々と話をして、こういう話し方に慣れてきたのかもしれない。そう思いたい。

 食事を終えて、いったん自分の部屋に戻る。出かける準備をして、30分後にバンクーバー市内観光に出発だ。いったい彼らはバンクーバーのどの辺りを案内してくれるのだろう。シーバスとかっていう船のバスにも乗るらしい。どんな感じなのか想像もつかないけれど、楽しそうだ。とにかく全てが初体験。

 30分後。

 キッチンから続くテラスを通って外に出る。この家は通りに面しているけど、こちら側は裏側にあたる。階段を下りた先は「コ」の字型に家が並んだ20メートル四方ほどのスペースになっている。そのまま表側の通りには出ずに裏側の道を進む。
 まずは、ここウエスト・バンクーバーの海の方に行ってみようということになった。海がすぐ近にあるらしいのだ。

 紅葉がまだかなり残っている。赤、オレンジ、黄色。ひんやりとした空気。青空。街並み。とても綺麗な場所だ。

 10分くらい歩いただろうか。公園が見えてきて、その先にキラキラと輝く水面が見える。海だ。公園の先はちょっとした砂浜になっているみたい。その砂浜沿いに遊歩道があって、歩いている人や犬の散歩をしている人が見える。

 登りたての太陽の光を左手に浴びながら砂浜に向かって歩く。海が近付いてくる。太陽が左側にあるってことは、こっちの側が、、

 ぅおっと!


(つづく)


物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です




Monday, November 3, 2014

超短編小説 『ラスト デイ/ラスト モーメント』





メイ アイ ハブ ユア アテンション プリーズ。 ア ボーディンブ ゲート フォー デルタ エアラインズ フライト ディー エル フォー シックス ファイブ スリー トゥ トーキョー ナリタ イズ チェンジド トゥ エー トゥエルブ。プリーズ ビー ケアフル ザ ロケーション イズ ノット、、、


あー、変わるのか。

まあいいや。


・・なんだろうね。


こういうアナウンスも聞き取れるようになったんだって・・



これって凄いことじゃんね。




・・さてと。


出発まであと1時間。



帰るよ。




日本に。








Sunday, September 15, 2013

[Vancouver] バンクーバー、深夜の記憶の欠片



バンクーバーはとても素敵な街だった。

ダウンタウン (※バンクーバーで一番発展しているエリア) を初めて歩いた時、まるで天国か未来の世界にいるように感じた。

素晴らしい音楽が溢れていた。

どこからともなく良い匂いがした。

タバコの匂いですら香ばしく感じた。

歩いている人々はみんな幸せそうな顔をしていた。

街中が喜びで溢れていた。


何か素晴らしい事が起きる予感がした。

素晴らしい人々に出会える予感がした。


これから始まる数週間のバンクーバー生活に胸躍った。


そこは、まるで天国か未来の都市のようだった。




YouTube でバンクーバーの Time Lapse を見つけた。




この動画を観ていたら、深夜のバンクーバー市内をぶらぶらと歩き回った日の事を思い出した。

静まり返ったバンクーバー市内を、当てもなく独り歩くのは、とても不思議な感覚だった。

言葉では言い表す事ができないような、とてもとても不思議な感覚だった。



僕はきっとまたバンクーバーに行く。

そこで生活を始めるかもしれない。

それくらい素敵な街だったんだ、バンクーバーは。




Saturday, August 17, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0003





[前回 0002 はこちら]


 リチャード、いったい君は・・

 君が話している言葉は・・・何語なんだ?



 いや、、英語なんだろうけど、、


 ・・ゴニョゴニョゴニョとしか聞こえないぜ。


 もちろん、リチャードは英語を話しているんだけどさ。早口なのか、あまり抑揚をつけないのか、こういのが普通のカナダの青年の話し方なのか、正直言って何を言っているのか分からない。きっと、母親のジェーンは、ゆっくり、そして分かりやすい単語を使って話してくれているんだろうなって思う。
 リチャードの友達のジョニーもリチャードと同じような喋り方だ。でもリチャードよりは聞き取りやすい気もする。
 このわずか3週間の留学で、彼らと普通に会話できるようになるのだろうか。少し不安だな。でも、明後日、月曜日から語学スクールに通い始める。スクールだけではない。ここはカナダだ。どこに行っても英語だ。24時間ずーと英語を使って暮らさないといけないわけだ。きっとそれは僕の英語力を鍛えてくれるはず。うん。きっとそうだ。とにかく、これからが楽しみなんだ。

 食事が終わる。リチャードやジョニーともとにかく話をしてみる。なんとなく通じているみたい。会話っていうのは文章や文法、発音なんかが完璧でなくても意外と通じるのかもしれない。表情、声の抑揚、そして身振り・・。そう。最悪、知っている単語を並べるだけでもそれなりに通じたりするんだよね。うん。まー、それは僕が日本で英会話スクールに通っていた時なんかに感じていたことなんだけども、それってきっと本当だ。

 リチャードとジョニーが、これから家の近くを案内してくれるって言ってる。
ちょっとブラブラして近くのバーにでも飲みにでもいかないかって。もちろん行くさ。初めて訪れた場所だもん。色々なところに行きたいよ。

 部屋に戻って外出する準備をする。雨はやんでいるみたいだった。もう外は真っ暗だし、だいぶ寒くなっているんだろうな。少し厚めのコートを着て行こう。

 リチャードとジョニーと一緒に外に出る。うわー、やっぱり寒い。

 家の正面は比較的大きな通りだ。と言っても、車がひっきりなしに走っているような道ではない。夜だからなのかもしれないけど、車は比較的まばら。1台も走っていない時間の方が多い感じ。この道沿いに色々なお店が並んでいる。雑貨屋もあればレストランもある。だいたいが2階建てくらいの建物だ。周りを見渡してみても、高いビルとかは見えない。多分、ここ、ウェストバンクーバーは郊外という言葉が似合う街なんだと思う。

 道の反対側に渡り、3人並んでぶらぶら歩く。綺麗な街並みだなって思う。

 リチャードが、もう暗いし、明日は日曜日なので、家から少し離れたところに行くのは明日にしようって言ってる。バンクーバー市内のメインエリア(ダウンタウンと呼ばれているらしい)にも連れて行ってくれるという。だから今日はバーに行くだけにしないかって。寒いし。
 うん、そうだね。それが良いと思う。
 明日が凄く楽しみだな。街中を彼らと一緒にこうして歩くだけで楽しいのだから、明日はもっと楽しい事だろう。

 バーに着いた。こじんまりとしているけど落ち着いた感じ。アイリッシュパブとかってこんな感じじゃなかったっけ?まー、そんな感じの落ち着いた感じ。心地良い空間。
 テーブルに座りメニューを見る。英語オンリーのメニュー。英語オンリーの店内。英語オンリーの街並み。英語オンリーの人々。あー、海外にいるなって実感できる。日本にいたら決して味わうことのできないこの感覚とこの気持ち。ワクワクというか高揚感というか、なんというか、とにかく幸せな気分。

 何を飲もうか。とりあえず、雰囲気が良いので・・カクテルとか頼んじゃおうっか。色々ある。何にしよう。迷うな。
 しばらくして店員がやって来る。ジョニーはビールを頼んでいる。リチャードはオレンジジュースか。飲めないのかな?飲まないのかな?僕は・・ キューバリブレにしよう。

 すぐにドリンクが運ばれて来た。
 みんなで乾杯する。あ、やっぱり「チアーズ」って言ってる。日本にいても、英会話スクールのパーティなんかでは、みんな「チアーズ」って言ってたけどさ、これは本場の「チアーズ」だよね。面白い。

 カクテルを飲む。あー、良いね。うん、良い。この瞬間、この時間。色々な事が頭をよぎる。
 今日はとても素敵な一日だった。明日は一体何が起こるのだろうか。目の前にいるふたりがバンクーバーで一番発展しているエリア(ダウンタウン)を案内してくれるという。楽しみだな。バンクーバーには他にも色々と面白いエリアがあるらしい。きっとこれから、そういう様々な場所に行ける事だろう。初めて訪れる場所。行ったことのない場所。知らない場所。これから知ることになる場所。

 バンクーバー。これから3週間過ごすことになる街は一体どんな街なのだろうか。
 バンクーバー。これからいったい何が待ち受けているのだろうか。
 きっと素晴らしい体験が待っていることだろう。素晴らしい人達に出会えることだろう。

 今夜はぐっすり眠れるかな。
 日本を出発する前に主治医と話して、薬を持っていかなくても良いってことになった。もう大丈夫だろうって。夜もちゃんと眠れているようだからって。
 先生には本当にお世話になった。その先生が別れ際に、子供のような目をして「留学、楽しんできてね」って言ってくれた。嬉しかったな。その言葉と気持ちに感謝。

 再び、色々な事が頭をよぎる。

 何が自分の状況を変えたのか・・。

 何が僕の今の現状を作ったのか・・。

 そのうち機会があったら話そうかな・・って思う。


 明日は朝から一日、バンクーバー市内観光だ・・。

 何が待ち受けているのか・・、どんな人達と出会えるのか・・。


 色々な事が・・ 頭をよぎる・・


 まだ・・ 酔ってはいないと・・ 思うけど・・


 あくびがでる。


 明日が・・ 楽しみだな・・


 まだ・・ 酔ってはいないと・・ 思うんだけど・・


 再び、あくびがでる。


 なんだか・・ 今夜はぐっすり眠れそうだ・・


(つづく)


物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です




Wednesday, July 17, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0002




[前回 0001 はこちら]


 ドアが開き、ひとりの女性が現れた。年齢は50前後かな。ショートカットで少しぽっちゃりしているけど、太っているほどではない。茶色い髪色で丸顔。事前に資料をもらっていたので、これからお世話になるホストファミリーのジェーンだとすぐに分かった。

 確か、ジェーンには子供が2人いるって書いてあったな。ファーストフードで働いている長女、エミリーと、大学生で長男のリチャードだ。ご主人はいない。離婚したのか死別したのか、もしくは他の理由があるのか・・。

 簡単に挨拶をすませる。ジェーンが僕に家の中に入るように言った。玄関のドアを通り抜けて家の中に入る。初めて入るホストファミリーの家。静かだ。他には誰もいないのかな。なんとも言えない。ホームステイってどんな感じなんだろう。娘さんと恋に落ちちゃったりとか?・・いや、まあ、それは無いか。それに僕には気になっている人がいる。とにかく、これからお世話になる家。楽しみだ。

 ジェーンはまず僕のために用意してくれた部屋に案内してくれた。中に入ると6畳くらいの部屋で、ベッドとタンス、それから机が置いてあるのが見える。「荷物を置いたら、キッチンルームに来て」と言い残しジェーンは去って行ってしまった。とりあえず机のすぐ横にスーツケースを置く。ロックを外し、ふたを開け、中からお土産を取り出す。成田空港の中にあるスターバックスで購入した日本っぽい柄のタンブラーだ。喜んでくれるかな。

 ふと、机の上の方の壁に紙が貼ってあるのが目に留まった。手書きで「Welcome, Tetsu!」と書いてある。こういうさりげない演出って好きだな。なんだか嬉しい。

 さて、キッチンルームに行ってみよう。場所は分かる。さほど大きな家ではないし、玄関からこの部屋に来る途中に横に見えたから。

 部屋を出て右手に進む。廊下の突き当りを左に曲がるとリビングルームがある。その先がキッチンルームだ。

 キッチンルームに着くとジェーンが待っていた。テーブルの上にスープが用意してある。白っぽいスープ。なんだろう。クラムチャウダースープか何かかな?「飲んで」と言われたので飲んでみる。うん、温かくて美味しい。やっぱりクラムチャウダーだ。ホタテの良い香り。外が寒かっただけに、身体がポカポカしてくるのを感じる。ほんとに美味しい。

 聞くところによると、普段はジェーンがすべての食事を作っているとのこと。でも今日は息子のリチャードが夕食を買いに行っているらしい。もう少ししたら帰って来るのではないかって。

 外がだんだん暗くなってきた。雨は降っているのか降っていないのか分からない感じ。

 リチャードを待っている間に、ジェーンが家の中を簡単に案内してくれた。
 この家は少し構造が変わっているなと思う。まず、玄関が2階にある。1階はお店か何かみたいだったから、多分この家は借家なんだと思う。そして玄関の他に家の出入り口がもうひとつ。キッチンルームにあるドアから外に出ることができるテラスだ。このテラスには階段があって、それを降りると外に出ることができる。テラスには屋根付きの東屋みたいなのがあって、テーブルと椅子が置いてある。灰皿が置いてあるので、家族の誰かがタバコを吸うのかもしれない。
 僕の隣の部屋が長男リチャードの部屋。そしてその隣が長女エミリーの部屋とのこと。ジェーンの部屋はキッチンの近くにある。バスルームは僕の部屋の比較的近くにある。

 そうこうしているうちにリチャードが帰ってきた。大きな袋を2個持っている。少しやせ気味だけど、はっきりした顔付きでモテそうな感じ。グッチの帽子をかぶってるのがちょっぴりキザっぽいなあ。かといって、生意気そうとかそういうのではない。・・ん?もうひとりいるぞ。姉のエミリーではない。男性だ。リチャードと同じくらいの年齢の男の人。友達かな?眼鏡をかけていて背はリチャードよりも高い。利発そうでインテリっぽいイメージ。多分、リチャードの友達だと思う。

 両方ともごく普通の青年に見える。まあ、僕はカナダに着いたばかりだから、そこに暮らしている青年達がどんな感じなのかは全然知らないんだけど、なんとなくそう見える。なんとなく性格が良さそうに見える。見た目がそう見える。んー、まー、そんなもんでしょ。

 ふたりに挨拶をする。やはり、もうひとりはリチャードの友達だった。名前はジョニー。リチャードと同じ大学に通っているらしい。ジェーンのことも良く知っているみたい。

 リチャードとジョニーがテーブルの上に食事を並べる。スパゲッティ、ソーセージ盛り合わせ、ローストチキン、ピザもある。うーん、良い匂い。美味しそうだ。
 食事の準備が終わり、みんながテーブルを囲んで椅子に座る。長女のエミリーは仕事に行っていて、帰ってくのはもう少し遅くなってからじゃないかってジェニーが言ってる。

 初めてのカナダでの夕食。バンクーバーに住むホストファミリーと一緒に食べる夕食。とても美味しい。これがホームステイというものなのかな。こういう感じで一緒に食事をしながら毎日おしゃべりできるなら、英会話力がアップするのも早いだろうなって思う。

 ・・・と思ったのも束の間。

 リチャードが何か話しかけてきた。一瞬「え?」って思った。

 え?え?

 リチャード、君はいったい何語を話してるんだ?


(つづく)


[次回0003はこちら]

* 物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です。




Thursday, July 4, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0001





 真実は小説よりも奇なり、か。実際のところどうなんだろうね。

 そう言えば、今までバンクーバーに留学していた時の話をブログとかに書いてなかったなーって思って。

 忘れないうちに記録に残しておこうと思うんだ。(少しだけ小説風に)


--

2010年11月6日(土)


 バンクーバー空港に到着した。カナダ西岸、ブリティッシュ・コロンビア州にあるとても綺麗で近代的な国際空港だ。

 成田空港から何時間くらい掛かっただろうか。覚えてない。7時間か、9時間か。多分それくらいだ。Air Canadaの飛行機の中は半分が外国人、半分が日本人、みたいな感じだった。


 ボーディング・ブリッジを渡り空港建物内に降り立つ。初めての空港。初めての国。どこの国に行っても思うけど、匂いが違う。その匂いをかぐと「海外に来た!」って実感できる。ワクワクする瞬間。

 通路を歩き、入国審査のエリアに向かう。海外に来た日本人が空港で一番緊張するのはこの入国審査だろうなって思う。でも、今まで審査官から質問されたことってほとんどないなーとも思う。多分、今回も何も聞かれないのではないか。

 パスポートと入国カードを渡す。審査官はにっこりしながら、いや、実際ににっこりしたのかどうかは分からない、多分、しかめっ面だったんだと思うけど、何かを聞いてきた。一応、分かる範囲で回答する。その後もいくつか質問された。滞在期間の予定が3週間。それなりに長いので色々聞かれたのかもしれない。英会話スクールに長い間通っていて良かったなって心から思う。

 荷物を受け取り、税関を抜け、到着ロビーに出る。本当に綺麗な空港だ。まあ、空港なんてどこも綺麗なんだけど、なんか調和が取れているというか、、なんだろうね、カナダってこういうところなんだろうなって思う。

 あ、そうだ、飛行機の中で財布の中に2千円しか入ってないことに気付いたんだった。カードがあるから良いけど。とりあえずATMとかないかなって探してみる。近くにはないか。まあいいや、あとで。とりあえず待ち合わせ場所に向かわないといけない。


 今回の短期留学は新宿にある「留学ジャーナル」で手配してもらった。ホームステイ先も自分の趣味や好きなものから合いそうな家庭を選んでくれた。ステイ先の審査基準もしっかりしているようで、変な家庭とかは多分無いんだと思う。もちろんホームステイだけでなく、シェアハウスや寮、アパートなんかも選べる。国や地域、語学学校も数多くの選択肢の中から自分に合ったものを選べる。僕がバンクーバーを選んだ理由は、そこで話されている英語がアメリカ東海岸で話されている英語とほぼ同じ発音で訛りがほとんど無いこと。それから、バンクーバーは美しい街と聞いていたし、一度は行ってみたいと思っていた場所だからだ。


 さて、待ち合わせ場所に着いた。現地スタッフの方と留学生である日本人が20名ほどいる。

 現地スタッフの方から簡単な説明を聞いて、滞在先ごとに5名ほどのグループに別れてワンボックスカーに乗る。同乗者は僕のホームステイ先があるウェスト・バンクーバーとその隣にあるノース・バンクーバーというエリアに滞在する人たち。初めてホストファミリーに会うので、みんな緊張しているっぽい。もちろん僕もドキドキしている。でも数日前に日本からホストファミリーに電話をしておいたので、(事前のメールのやり取りの中で、良かったら電話ちょうだい、みたいのが書いてあったから、)そこまで緊張はしてないのかも。きっと英語を全く話せない状態で留学に来ていたら、死ぬほど緊張していたんだと思う。そういう意味では僕は幸運だ。


 車窓から眺めるバンクーバー市内。夕暮れ時で曇り空。軽く霧雨っぽいのが降っている。11月初旬の冷えた空気の中で静かにたたずむ街並みは、なんだか哀愁感みたいなものが漂っている。流れていく景色を眺めながら、とうとうここまで来たんだなって思う。


 海外留学 ―――。たった3週間とはいえ、海外に滞在して英語を勉強することは僕のひとつの夢だった。仕事に追われていた毎日。長かった入院生活。退院してからも何もやる気がおきない生活が続いていた。ただ無駄に流れていくだけの時間。まさかまたこうして英語を勉強し直そうと思える日が来るとは思わなかった。今こうして、語学学校に通うためにカナダにいるという事が信じられないくらいだ。人生って不思議だな。今僕は幸せを感じている。喜びから来るような大きな幸せではないけど、心の中に静かに染み入ってくるような幸せ。包みこまれるような静かな幸せ。

 もし英会話スクールに通うことを決めていなかったら、もし10年前のあの偶然的な出来事がなかったら、今こうして僕がここにいることもなかっただろうなって思う。きっと違う人生を歩んでいたことだろう。もしかしたら結婚していて、子供もいて、もっと幸せな家庭を築いていたのかもしれない。でもどうなっていたかなんて実際には分からない。だから、そういうことを考えるだけ無駄なのかもしれない。今僕はここにいる。それだけで十分だ。それだけで十分幸せだ。人生って本当に不思議だね。


 最初のひとりが降りた。またどこかで会えるかな。


 ふたり目が降りた。玄関の呼び鈴を押すのが見えた。


 次は僕の番だ。緊張しているけど、昂揚感もある。きっと色々と楽しい事が待っているはずだと思う。様々な出会いもあるだろうと思う。どんな人たちに出会えるのか。どんな事が起こるのか。本当に楽しみだ。


 ホームステイ先の家に着いた。車を降りる。

 今は緊張感はあまり感じてない。勇気が湧いてくる感覚。不思議な感覚。

 玄関の呼び鈴を押す。


 こうして僕のバンクーバー留学が始まった。


(つづく)
物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です