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Monday, October 5, 2015

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0004




[前回 0003 はこちら]


 目が覚める。

 四角い部屋の中。四角いベッドの上。クリーム色の天井。見慣れない景色。

 ・・・・・。

 ・・・・・?

 ああ・・

 そうだ。

 ここはバンクーバーなんだ。

 寝ている間にたくさんの夢を見たような気がする。どんな夢だったのかは思い出せないけど、いくつもの事が同時に起きて頭がグルグルしている感覚だった。ひとつの長い夢だったのかもしれない。何個かの夢を重ねて見たのかもしれない。色々な場面、色々な人物が次々と現れては切り替わっていった。高熱にうなされている時や、大きなイベントで脳が興奮している時に見るような、濃厚で圧縮されたグルグルした感じの夢。そんな夢だった。

 ベッドから出て、うっすらと明りの洩れる薄緑色のカーテンを開ける。道を挟んだ向かい側の建物や家が見える。その形は、ああ、なるほど、日本のものとは違って西洋的だね。まあ、そりゃそうだよなって思うけど、日本にある西洋的な家ともまた違う感じがする。もっと、そう、何と言うか、景色になじんでいる感じ。
 眼下には通りを歩いている人々の姿が見える。この部屋は2階にあるのか、と改めて実感する。道行く人たちは色とりどりのコートを着ている。寒そうだな。
 上を見上げる。綺麗な青空。その青い色の中に浮かぶ少しばかりの白い雲。
 窓を開けてみる。ひんやりとした空気が入ってくる。やっぱり寒い。

 今日はリチャードとジョニーがバンクーバー市内を案内してくれるって言っていた。楽しみだ。
 初めて訪れる街。初めて出会う人々。美しい朝。美しい街。語学留学。カナダ。バンクーバー。これからの3週間。本当に本当にワクワクする。

 さてと、それではまず朝食を食べに行こう。

 キッチンに行く。良い匂いがする。リチャードとジョニーが既にテーブルに座っている。ホストマザーのジェニーは流し台の近くに立ってソーセージを焼いている。
 みんなに「おはよう」を言って僕も椅子に座る。ん?あれ?そう言えば、なんでジョニーがこんな早い時間にいるんだろう。彼はこの家に泊まったのか?
 ファーストフードでアルバイトをしているという長女のエミリーは今朝も姿が見えない。家に帰って来なかったのだろうか。どういう感じの子なのだろう。気になるよね。てか、ホームステイ先の家に20代の女性が住んでいるなんて、ちょっとドキドキするじゃんね。これって、あれでしょ?出会った当初は留学生とそのホストファミリーのひとりとして普通に接していたふたりであったが、ひとつ屋根の下、一緒に食事をしたり遊びに行ったりしているうちに相手のことが少しずつ気になっていることに気付く。いつしかふたりはお互いを意識し合うようになり・・ そして・・ そして・・ っていう、あれだ。むふふ。
 でもまあ、そういのって、あれだよね。あれあれうるさいかもだけど、妄想だ。実際は小説とかドラマの中でしか起こり得ないんだろうね。
 あ、そうそう、昨日も言ったような気がするけど、僕は他に気になっている女性がいる。カナダ人でも日本人でもない。フィリピンに住んでいるフィリピン人の女性。実際にまだ会ったことはないんだけれども、今すぐにでも会いに行きたい女性。でもなかなかフィリピンには行けないよなーって思う。今僕はカナダにいるし、なによりも英語を勉強したいからね。なーんていう言い訳。会いに行かないことに対する言い訳。できるかもしれないのに、しないことに対する言い訳。会いに行き「たい」では、いつまで経っても会いに行けないか。ああ、彼女は今いったい何をしているのだろう。

 料理が運ばれてくる。ソーセージにハムに目玉焼き。コーンポタージュスープ。そして、平たい皿に乗ったごはん。色とりどりのサラダもある。美味しそうだ。コーヒーの芳ばしい香りもする。
 ジェーンによると、エミリーは一旦家に帰ってきたんだけど、また早朝からバイトに行ってしまったとのこと。でも今夜は会えるみたい。じゃあ、それまで楽しみにしていよう。

 料理はどれも素晴らしく美味しかった。リチャードとジョニーの喋り方は相変わらずゴニョゴニョしていて聞き取りにくいけど、昨日会ったばっかりの時に比べたら、なんとなく聞き取れているようにも感じる。少しゆっくり目に喋ってくれているのかもしれないけど、昨夜バーで色々と話をして、こういう話し方に慣れてきたのかもしれない。そう思いたい。

 食事を終えて、いったん自分の部屋に戻る。出かける準備をして、30分後にバンクーバー市内観光に出発だ。いったい彼らはバンクーバーのどの辺りを案内してくれるのだろう。シーバスとかっていう船のバスにも乗るらしい。どんな感じなのか想像もつかないけれど、楽しそうだ。とにかく全てが初体験。

 30分後。

 キッチンから続くテラスを通って外に出る。この家は通りに面しているけど、こちら側は裏側にあたる。階段を下りた先は「コ」の字型に家が並んだ20メートル四方ほどのスペースになっている。そのまま表側の通りには出ずに裏側の道を進む。
 まずは、ここウエスト・バンクーバーの海の方に行ってみようということになった。海がすぐ近にあるらしいのだ。

 紅葉がまだかなり残っている。赤、オレンジ、黄色。ひんやりとした空気。青空。街並み。とても綺麗な場所だ。

 10分くらい歩いただろうか。公園が見えてきて、その先にキラキラと輝く水面が見える。海だ。公園の先はちょっとした砂浜になっているみたい。その砂浜沿いに遊歩道があって、歩いている人や犬の散歩をしている人が見える。

 登りたての太陽の光を左手に浴びながら砂浜に向かって歩く。海が近付いてくる。太陽が左側にあるってことは、こっちの側が、、

 ぅおっと!


(つづく)


物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です




Friday, April 17, 2015

Watching "VISUAL POETRY" a Poetry Reading / Theater Play

I watched a poetry reading "Visual Poetry" produced, written and directed by Yu Shibuya on April 11th. I had been looking forward to watching it. Because I think Yu Shibuya is one of talented people I have ever met in my life and I like his works very much. His previous theater play, "Three sisters of Kunitomi family", I'm not sure exactly an English title of it, made me moved and cried. That play was really impressed and wonderful. So I had expected the "Visual Poetry" should also be nice. Then, I found when I watched it that my expectation had not betrayed myself. I was surprised such a kind of poetry reading was existing. I had known from twitter or facebook that Yu Shibuya had been saying the Visual Poetry is kinda new style of the poetry reading. Exactly it was not only a poetry reading but also a theater play, namely, they were merged into one fantastic art work. I understood the "Visual Poetry" was as it was, means it was truly the VISUAL poetry. In other words, the world in the poetry were able to be seen visually by actors' acting, not only by reading poetry.

Furthermore, what I thought how amazing was, and I believe everyone thought the same was, a way of usage of music stand. Wow.. How amazing it was. The music stands were used as many items such as table, training machine, scoop, etc. I was really impressed it. There were not any other items except for the music stands on the stage, but actors played as if they were using each items, with reality, changed from the music stands.


The "Visual Poetry" consisted of 8 poems. There were laughing, sadness, excitement, joy, moving, happiness, tragedy, etc. But what I felt by watching all through the poems was kinda gentleness and sensitiveness which I felt covering whole the stories. Thinking of it, Yu Shibuya must be such a person, I believe, with gentleness and good sensitiveness. And it may be the reason I like him and his works.

I was able to watch the wonderful work, which I had never seen before. It was nice experience for me. I really appreciate Yu Shibuya who invited me to watch his latest work, the Visual Poetry.

Thank you. 

Thursday, April 16, 2015

Watching "Hotel Miracle" a theater play


On April 11th, I watched a theater play "Hotel Miracle" held at Theater Miracle in Shinjuku, Tokyo. Why I watched it was one of my classmates was playing in one of stories of the theater which consisted of 5 stories. Each story occurs respectively but in a same hotel which we Japanese say it as Love Hotel that is for couples to make love. Every story was fun and interesting for me. For example, one of the stories had a couple who did not know each other. And another one had a murder in a room. Etc, etc. My classmate, she is taking a same class at tori studio where we are learning the acting, was playing in the last story whose title was "Super Animal", as a high school student who is making love with a man for getting money.

We are learning at tori studio that the acting is to act truly (not to play) in given stories. We need to believe the world in which we are acting. To act with believing makes people impressed and moved. In the theater, I felt she was doing so. I felt she was acting much better than any other actors/actresses there. Am I praising her too much? Hahaha, I am not sure though, but I strongly felt during watching her actions and behaviors in the theater that we are learning proper things at proper place.

Ahh.

I've just realized why I praised her so much. Because I was able to see her in JK style, well.. JK means "Joshi Koukousei" in Japanese which is high school student girls in English. I saw her wearing uniform of JK, and also I was able to see her in Chinese dress. Who can say Chinese dress is not sexy? Well, exactly.. yeah, it was the late show started at 25 pm (1 am). And honestly speaking, I was a little bit exited because of the atmosphere of the midnight. Anyway, I believe she is a good actress. Thanks for being able to see good theater play and..

Monday, November 3, 2014

超短編小説 『ラスト デイ/ラスト モーメント』





メイ アイ ハブ ユア アテンション プリーズ。 ア ボーディンブ ゲート フォー デルタ エアラインズ フライト ディー エル フォー シックス ファイブ スリー トゥ トーキョー ナリタ イズ チェンジド トゥ エー トゥエルブ。プリーズ ビー ケアフル ザ ロケーション イズ ノット、、、


あー、変わるのか。

まあいいや。


・・なんだろうね。


こういうアナウンスも聞き取れるようになったんだって・・



これって凄いことじゃんね。




・・さてと。


出発まであと1時間。



帰るよ。




日本に。








Tuesday, August 19, 2014

[動画] 人間って素晴らしい - [Video] PEOPLE ARE AWESOME 2013 - 2014






なんか凄い動画を見つけた。

こんな事までできるんだね。

人間って素晴らしい。


I've just found an amazing video.

They can do even such things.

People are awesome.








Thursday, December 12, 2013

【短編小説】 幸せのお裾分け


国境の長いトンネルを抜けると


喜びと希望と飛躍と愛と幸福に溢れた2014年であった。


周りを見渡す。


僕ひとりではなかった。


長いトンネルの中は暗くて分からなかったけど、


そこには、


明るい2014年という出口に現れた


家族と仲間、


そして、たくさんの友人たちがいた。


(了)



Saturday, August 17, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0003





[前回 0002 はこちら]


 リチャード、いったい君は・・

 君が話している言葉は・・・何語なんだ?



 いや、、英語なんだろうけど、、


 ・・ゴニョゴニョゴニョとしか聞こえないぜ。


 もちろん、リチャードは英語を話しているんだけどさ。早口なのか、あまり抑揚をつけないのか、こういのが普通のカナダの青年の話し方なのか、正直言って何を言っているのか分からない。きっと、母親のジェーンは、ゆっくり、そして分かりやすい単語を使って話してくれているんだろうなって思う。
 リチャードの友達のジョニーもリチャードと同じような喋り方だ。でもリチャードよりは聞き取りやすい気もする。
 このわずか3週間の留学で、彼らと普通に会話できるようになるのだろうか。少し不安だな。でも、明後日、月曜日から語学スクールに通い始める。スクールだけではない。ここはカナダだ。どこに行っても英語だ。24時間ずーと英語を使って暮らさないといけないわけだ。きっとそれは僕の英語力を鍛えてくれるはず。うん。きっとそうだ。とにかく、これからが楽しみなんだ。

 食事が終わる。リチャードやジョニーともとにかく話をしてみる。なんとなく通じているみたい。会話っていうのは文章や文法、発音なんかが完璧でなくても意外と通じるのかもしれない。表情、声の抑揚、そして身振り・・。そう。最悪、知っている単語を並べるだけでもそれなりに通じたりするんだよね。うん。まー、それは僕が日本で英会話スクールに通っていた時なんかに感じていたことなんだけども、それってきっと本当だ。

 リチャードとジョニーが、これから家の近くを案内してくれるって言ってる。
ちょっとブラブラして近くのバーにでも飲みにでもいかないかって。もちろん行くさ。初めて訪れた場所だもん。色々なところに行きたいよ。

 部屋に戻って外出する準備をする。雨はやんでいるみたいだった。もう外は真っ暗だし、だいぶ寒くなっているんだろうな。少し厚めのコートを着て行こう。

 リチャードとジョニーと一緒に外に出る。うわー、やっぱり寒い。

 家の正面は比較的大きな通りだ。と言っても、車がひっきりなしに走っているような道ではない。夜だからなのかもしれないけど、車は比較的まばら。1台も走っていない時間の方が多い感じ。この道沿いに色々なお店が並んでいる。雑貨屋もあればレストランもある。だいたいが2階建てくらいの建物だ。周りを見渡してみても、高いビルとかは見えない。多分、ここ、ウェストバンクーバーは郊外という言葉が似合う街なんだと思う。

 道の反対側に渡り、3人並んでぶらぶら歩く。綺麗な街並みだなって思う。

 リチャードが、もう暗いし、明日は日曜日なので、家から少し離れたところに行くのは明日にしようって言ってる。バンクーバー市内のメインエリア(ダウンタウンと呼ばれているらしい)にも連れて行ってくれるという。だから今日はバーに行くだけにしないかって。寒いし。
 うん、そうだね。それが良いと思う。
 明日が凄く楽しみだな。街中を彼らと一緒にこうして歩くだけで楽しいのだから、明日はもっと楽しい事だろう。

 バーに着いた。こじんまりとしているけど落ち着いた感じ。アイリッシュパブとかってこんな感じじゃなかったっけ?まー、そんな感じの落ち着いた感じ。心地良い空間。
 テーブルに座りメニューを見る。英語オンリーのメニュー。英語オンリーの店内。英語オンリーの街並み。英語オンリーの人々。あー、海外にいるなって実感できる。日本にいたら決して味わうことのできないこの感覚とこの気持ち。ワクワクというか高揚感というか、なんというか、とにかく幸せな気分。

 何を飲もうか。とりあえず、雰囲気が良いので・・カクテルとか頼んじゃおうっか。色々ある。何にしよう。迷うな。
 しばらくして店員がやって来る。ジョニーはビールを頼んでいる。リチャードはオレンジジュースか。飲めないのかな?飲まないのかな?僕は・・ キューバリブレにしよう。

 すぐにドリンクが運ばれて来た。
 みんなで乾杯する。あ、やっぱり「チアーズ」って言ってる。日本にいても、英会話スクールのパーティなんかでは、みんな「チアーズ」って言ってたけどさ、これは本場の「チアーズ」だよね。面白い。

 カクテルを飲む。あー、良いね。うん、良い。この瞬間、この時間。色々な事が頭をよぎる。
 今日はとても素敵な一日だった。明日は一体何が起こるのだろうか。目の前にいるふたりがバンクーバーで一番発展しているエリア(ダウンタウン)を案内してくれるという。楽しみだな。バンクーバーには他にも色々と面白いエリアがあるらしい。きっとこれから、そういう様々な場所に行ける事だろう。初めて訪れる場所。行ったことのない場所。知らない場所。これから知ることになる場所。

 バンクーバー。これから3週間過ごすことになる街は一体どんな街なのだろうか。
 バンクーバー。これからいったい何が待ち受けているのだろうか。
 きっと素晴らしい体験が待っていることだろう。素晴らしい人達に出会えることだろう。

 今夜はぐっすり眠れるかな。
 日本を出発する前に主治医と話して、薬を持っていかなくても良いってことになった。もう大丈夫だろうって。夜もちゃんと眠れているようだからって。
 先生には本当にお世話になった。その先生が別れ際に、子供のような目をして「留学、楽しんできてね」って言ってくれた。嬉しかったな。その言葉と気持ちに感謝。

 再び、色々な事が頭をよぎる。

 何が自分の状況を変えたのか・・。

 何が僕の今の現状を作ったのか・・。

 そのうち機会があったら話そうかな・・って思う。


 明日は朝から一日、バンクーバー市内観光だ・・。

 何が待ち受けているのか・・、どんな人達と出会えるのか・・。


 色々な事が・・ 頭をよぎる・・


 まだ・・ 酔ってはいないと・・ 思うけど・・


 あくびがでる。


 明日が・・ 楽しみだな・・


 まだ・・ 酔ってはいないと・・ 思うんだけど・・


 再び、あくびがでる。


 なんだか・・ 今夜はぐっすり眠れそうだ・・


(つづく)


物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です




Saturday, July 27, 2013

[短編小説] ドラえもん - もうひとつのラストストーリー - Another last story of Doraemon






「のび太君、今日は大事な話があるんだ」


「なんだい、ドラえもん。あらたまっちゃって」


「実は未来の世界に帰らないといけなくなったんだ」


「別にいいよ。何日くらい?」


「のび太君・・」


「こっちに帰って来るのはいつ?」


「のび太君、あのね・・」


「ん?」


「これはね、とても大事な話なんだ」


「ん?」


「つまり・・」


「つまり?」


「・・僕はもうこっちの世界には戻って来ない」


「え・・・・・・・・ ?」


「・・ごめん」


「あははは。またまたあ。ドラえもん、からかわないでよ。びっくりするじゃん。でも、そういう風に言うって事は少し長くなるんだね。ふーん。別にいいから、どれくらいの期間なのか正直に言ってよ」


「だから、ずっとだって。ずっと。・・もう戻って来ない」


「え・・?」


「だから、もう戻って来ない」


「あはははは。もう、ドラえもんったら、からかわないで欲しいなあ」


「・・本当なんだ」


「いやだなあ。もう。・・・・嘘でしょ?」


「嘘じゃない」


「嘘だよね?」


「嘘じゃないんだよ」


「もう、嫌だなあ。・・いい加減、嘘だって言わないと怒るよ」


「嘘じゃないんだって。本当なんだよ。のび太君」


「え・・?どうして?」


「本当なんだよ」


「どうして?どうして未来に帰らないといけないの?」


「仕方がないんだ」


「どうして?どうしてなの?」


「それは・・」


「だって、ドラえもんがいなかったら僕は生きていけないじゃん。ジャイアンやスネ夫にいじめられたらどうすれば良いの?」


「だから・・」


「なんで?突然いなくなるなんて、あまりにも無責任じゃん」


「仕方がないんだよ。未来の世界がそう決めたんだ。もう、のび太君には僕は必要ないって。未来の世界がそう決めたんだ。僕はその決定に従わないといけないんだ。これは仕方のないことなんだよ」


「そんな・・」


「君はもう僕がいなくても生きていける」


「そんなことないよ・・・」


「そうなんだよ。だから未来の世界は僕を帰すことを決めたんだよ」


「だって・・・」


「確かに君は泣き虫だし、いじめられたらすぐに僕に頼るところがある」


「・・・」


「でもね、君には誰かに負けたくないっていう気持ちがあるんだよ。逃げたくないっていう強い気持ちを持っているんだよ」


「そんなことないよ・・」


「そうなんだって」


「・・・」


「何度ジャイアン達にいじめられても、そのたびに立ち上がって立ち向っていく勇気を持っているじゃないか。決して諦めない強い心を持っているじゃないか」


「・・・」


「違う?」


「・・わからない」


「そうなんだよ」


「・・わからないよ」


「そうなんだって」


「・・そう ・・なのかな?」


「そうだよ。だから未来の世界は、もう僕は必要ないって判断したんだ」


「で、でも・・」


「もう。まったく煮え切らない性格だなあ」


「だって・・」


「とにかく僕は帰らないといけない」


「・・・」


「いいかい、のび太君」


「・・うん?」


「これから話すことをよく聞いて欲しいんだ」


「・・・」


「未来の世界から、最後に君に伝えてくれと言われている」


「・・うん」


「にわかには信じられない話かもしれない。でも、これは未来の世界ではいたって普通の話なんだ」


「・・・」


「驚かないで聞いて欲しい」


「・・・」


「この宇宙にはパラレルワールドというものが存在する」


「え・・?ちょ、ちょっと突然すぎない?それに・・なに?・・パラレル・・ワールド?」


「そう。パラレルワールド。並行世界って意味だよ。量子論の研究が進んだ未来では、その存在は当たり前のものになっている。難しい話になるけど、量子力学では・・」


「ちょ、ちょっと待ってよ、ドラえもん。りょうしなんたらなんて知らないよ。そんな話どうでもいいよ。ドラえもんが帰るのと何の関係もないじゃん」


「いや、実は関係している。それに分からなくてもいいから聞いていて欲しいんだ。なぜなら、この会話はいずれ誰かに観測されることになっているから」


「観測?ますます意味不明だよ・・」


「意味不明でも構わないんだ。これは量子力学を含めた量子論全体、そしてそこから派生したパラレルワールドに関わることなんだ」


「・・・」


「そしてそれは僕たちが存在したという証のためでもある。そのためにも話しておく必要があるんだ」


「ド・・ドラえもん?どうしたの?壊れちゃったの?」


「いや、僕はいたって普通だよ。とにかく聞いて欲しい」


「わ、わかった・・」


「僕たちがいるこの現代。量子力学の世界では、ものごとの状態を記述する波動関数は観測によって収束されると言われている」


「・・・?」


「簡単に言うと、観測しなければそのものがどういう状態にあるのか分からないってことなんだけど・・難しいかな?」


「・・・うん」


「別の言葉で言うと、誰かがあるものを見るまでは、それがいくつかの状態で同時に存在しているってことなんだ。簡単な例を挙げると・・・、シュレーディンガーの猫なんて言葉は・・・知らないよね?」


「シュレー・・ディンガーの・・ねこ?」


「うん。ある装置に猫が入っていて、その猫を観測するまでは、猫は生きた状態と死んだ状態のふたつの状態が同時にこの宇宙に存在しているってやつ。・・で、その猫を観測した時に初めて生きているのか死んでいるのかが決まるっていう・・」


「・・知らない」


「そうだよね。まあいいや。でね、シュレーディンガーの猫に限らず、量子力学における観測に関しては、ふたつの解釈があると言われているんだ。一般的な解釈と多世界解釈ってやつなんだけど・・」


「ドラえもん!ちんぷんかんぶんだよ・・。何を話しているのかさっぱりだよ・・。」


「うーん、仕方ないなあ。途中だけど話が長くなりそうだからこのあたりでやめておいたほうが良いのかな・・」


「うん、もういい」


「わかった。もしこういう話に興味があって、もっと詳しい内容を知りたいという方がいましたら、"量子力学" や "シュレーディンガーの猫"、"多世界解釈" とかで検索してみて下さいね」


「検索?何を言っているの?ドラえもん。誰に言ってるの?」


「あ、ごめん。忘れて」


「??」


「・・で、さっき出てきた量子力学の観測に関する多世界解釈によるとね、この宇宙は並行していくつもの世界が枝分かれ的に存在しているってことになるんだ。しかもそれは時間と共にどんどん増加している」


「んんん・・」


「つまり・・何が言いたいかと言うと・・・、僕たちは今こうして生きているじゃない?」


「うん」


「でも、ある宇宙では僕たちは実際には存在していないことになっているんだ」


「え?・・で、でも、僕らはこうしてちゃんと存在しているじゃん」


「だから、別の宇宙、パラレルワールドでの話だよ。そこでは僕らはアニメのキャラクターとして生きている」


「ア、アニメ?ちょっと唐突すぎない?何を言い出すかと思ったら・・」


「まあ聞いて。それは、ただ単に誰かが僕らを頭の中で創造しただけなのかもしれない。もしくは、その世界でも僕らは実際に生きていて、その実話をもとにアニメが制作されたのかもしれない」


「なんだか良くわからないよ。それになんでそんな別の世界の事がわかるわけ?」


「未来の世界ではある種のパラレルワールドを観測できるようになっているんだ」


「ふーん。そうなの。それはすごいや。うん、すごいすごい」


「なんかそっけないね」


「だって面白くないんだもん。意味不明なんだもん。さすがにもうどうでもいいんだもん」


「とにかく聞いて。・・で、そのアニメの中でも僕は未来の世界に帰ることになっているんだ」


「ふーん」


「でもね、その後みんながどうなったのかは誰もわからないんだ。その後の話は公式には制作されていないからね」


「なんか微妙・・。気になるけど・・別の世界での話でしょ?だから何なのって感じ」


「まあ確かに・・あくまでもパラレルワールドでの話だからね。ただ、面白いことに、その世界では僕たちの最終回、つまり僕たちがどうなったのかについて、いくつか別の話や解釈があるんだよ」


「ふーん、そうなんだ」


「例えば、のび太君、実は君は植物人間状態で入院しているって話がある。全ての物語が実は君の夢だったっていう話」


「こ、怖いよ・・」


「うん、怖い。それにあまり良い結末ではないよね。衝撃的ではあるけど」


「そうだね」


「それから、僕のバッテリーが切れてしまって動かなくなるという話もある。本来ならバッテリー交換するだけで良いんだけど、耳がなくなってしまっている僕は記憶のバックアップができないんだ。だから仮にバッテリー交換をして動けるようになっても、のび太君と過ごした期間の記憶が全て消えてしまう。僕の記憶がリセットされてしまうというわけ」


「そんな・・。僕と過ごした大切な時間の記憶がドラえもんから消えちゃうなんて嫌だよ」


「そう。その世界でも、のび太君は途方に暮れる。嘆き悲しむ。でも、きっと記憶を消さずに僕を復活させる方法があるはずだと信じてそこから猛勉強を始めるんだ。そして、一流大学を卒業し、優秀な科学者になる。僕の構造を分析し研究して、ついに僕を元通りの状態で、記憶を消さずに昔と同じ状態で復活させることに成功する」


「おお」


「僕を未来の世界で設計したのは他でもない、君だったんだ。大切な想い出を守りたいと願う、のび太君、君だったんだ・・という感動的な話だよ」


「ぼ・・僕がドラえもんを?うーん、それは凄いけど別の世界での話なんだよね?・・実際はどうなの?ドラえもんを設計したのは誰なの?」


「それは最高機密情報のひとつになっているんだ。だから僕も知らない」


「・・・そうかあ。でも・・もしかしたら、ドラえもんは未来ではなくて、その・・パラレルワールド?・・っていうところから来ていたりするのかもね」


「どきっ」


「え?」


「い、いや、なんでもない。何も言ってない」


「そう?・・まあいいや」


「・・ただね。ひとつ覚えておいて欲しいのは・・」


「うん」


「さっきも言ったように、僕たちの世界は無数に存在しているから、僕たちの最終回について色々な話や解釈があるのはいたって普通のことだってこと。誰かが観測している限り、すべてが正解であり、すべてが本当の話なんだってこと」


「・・うん、よくわからないけど、一応そういうことにしておく」


「ありがとう。今は理解できなくても、いずれ理解できるようになると思うよ」


「そうかな」


「うん」


「・・・」


「実際、今この瞬間も僕たちは誰かに観測されているから・・」


「・・・?」


「誰かがこの瞬間を見ているはずなんだ。いや、読んでいるのかもしれない」


「・・・え?」


「あ、もうこんな時間だ。そろそろ行かないと」


「え?もう行くの?早すぎるよ。やっぱりちょっと突然すぎるよ」


「僕だって戻りたくない。でも仕方ないんだ。どうしようもないんだよ」


「だって、だって・・。ドラえもんがいなくなったら僕は生きていけないんだもん!」


「だから、さっきも言ったじゃないか。もう一度言おうか?」


「・・・」


「確かに君は泣き虫だし、いじめられたらすぐに僕に頼る。でもね、のび太君には誰にも負けたくないっていう気持ちがある。逃げたくないっていう強い気持ちを持っている。何度何度ジャイアン達にいじめられても、そのたびに立ち向かっていける。のび太君は前に進める勇気を持っているんだよ。諦めない強い心を持っているんだよ」


「で、でも、それは・・、そのためにはドラえもんの道具がいるんだよ。僕にはどうしても道具が必要なんだよ。それが僕の心の支えなんだよ。道具があるから僕は勇気を持てたんだよ!立ち向かって行けたんだよ!」


「だったら、これからは道具以外の何かを心の支えとすればいいじゃないか。道具以外で勇気を持てるものを持てばいいじゃないか」


「そんなの絶対にないよ!」


「何を言っているんだ、のび太君。絶対なんてものはないさ。それに大切なものを忘れていないかい?」


「え?」


「君はなぜかジャイアンやスネ夫、他の人たちからいじめられる。それは彼らが君のことを認めていないからだ。ナメなれているんだ。君をダメなやつだと思っているからだよ」


「・・・」


「でも、いつでも君のことを認めてくれる、そして優しくしてくれる友達がいるじゃないか」


「え?」


「わからないのかい?」


「・・・」


「目をつぶって思い浮かぶ人はいない?」


「・・・」


「よく考えて」


「・・・」


「ほら」


「・・・」


「・・・」


「・・・し、しずかちゃん?」


「そうだよ。まったくもう。君はしずかちゃんが好きなんだろう?いつかは一緒になりたいと思っているんだろう?」


「そ、そうだけど・・」


「だったら、しずかちゃんをがっかりさせないようにしなきゃ。好きな女の子と一緒になりたいのなら、その子を守れる強さを持たないといけないんだよ。大人になったら色々な責任もかかってくる。逃げ出したくなる時もある。でもそのたびに逃げてばっかりだったり、誰かに頼ってばっかりしているようだったら女の子はついてこないよ。ましてや、一緒になりたいなんて思わないよ」


「・・・」


「いいかい。負けそうになったら、好きな人、愛する人のことを考えるんだ。しずかちゃんの優しさ、しずかちゃんの笑顔を思い出すんだ。彼女は君のことを認めてくれている。それはどういうことかを考えるんだ。いいかい。しずかちゃんの気持ちに応えるんだ」


「・・・」


「しずかちゃんを想う気持ち。それはきっと僕の道具よりも大きなパワーを持つはずだよ」


「・・・」


「どうか勇気を持って。くじけそうになったら、僕ではなく、しずかちゃんのことを考えるんだ」


「・・・」


「彼女の笑顔を思い出すんだ」


「・・・」


「・・もう、のび太君!!!」


「・・・」


「・・しずかちゃんの笑顔を見たくはないの?」


「・・それは・・見たいけど・・」


「だったら!」


「・・わ、わかった」


「そう」


「うん・・わかった。わかったよ、ドラえもん」


「そう。君ならやれる。大丈夫だよ」


「ありがとう、ドラえもん。なんだか少し勇気が湧いてきたよ」


「良かった」


「・・ありがとう、ドラえもん」


「うん。・・じゃあ、僕は行くよ。またどこかで会えるといいけど・・、きっとこれが最後だと思う」


「大丈夫だよ。ドラえもん。僕はドラえもんがいなくても頑張れる。困難に立ち向かっていける。約束する。僕は強くなる。男になる。だから安心して欲しい」


「最後にその言葉を聞けて嬉しいよ、のび太君。今までありがとう。この世界に来て本当に良かった。のび太君に会えて本当に良かった」


「僕もだよ。僕もドラえもんに会えて本当に良かった。・・ドラえもんが来てからの日々は本当に・・本当に楽しかった・・」


「うん」


「色々な出来事が・・あったよね。映画のような冒険に出たことも・・あったよね」


「うん」


「うっ・・」


「のび太君・・」


「ドラえもんと過ごした・・その全てが良い想い出だよ。ドラえもんとの想い出は絶対に忘れない・・。絶対に。だから・・、だから・・ドラえもんも・・、うっ」


「な、泣くなよ、のび太君。僕まで涙が出てくるじゃないか・・」


「また・・、また会えるよね?どこかで・・きっとまた・・会えるよね?」


「・・・」


「また一緒に楽しい時間を・・・、また一緒に・・楽しい時間を過ごせるよね?」


「・・・」


「必ずまた・・会えるよね?」


「・・・」


「ドラえもんと・・過ごした時間は・・まるで、夢のようだったから・・」


「・・・」


「いやだよ。本当は・・ドラえもんと別れるなんて・・いやなんだよ」


「・・・」


「いやだよ!」


「ごめん、のび太君・・」


「いやなんだよ!!!」


「ごめん、のび太君。・・でも、もう行かなきゃいけない」


「ドラえもん・・、どうして・・」


「仕方がないんだ。それにもう迎えが来ているみたいだから」


「・・・ドラえもん」


「さようなら。のび太君。そして今までありがとう」


「・・・ドラえもん」


「これで・・本当に最後だ」


「・・・」


「のび太君・・、大丈夫だよ。君の人生は必ずや素晴らしいものになる」


「・・・」


「大丈夫だから」


「・・うん」


「ありがとう、のび太君」


「わかった。・・ドラえもんも、ずっと元気でいてね」


「うん」


「さようなら・・、ドラえもん。そして・・本当に・・本当にありがとう」






・・・・










あれから何年が過ぎたのだろうか。


その後ドラえもんが僕の前に現れることはなかった。






今、僕はとある結婚式場のチャペルの前に立っている。


隣には今日一緒に結婚式を挙げる最愛の彼女がいる。






あれから色々なドラマがあった。


辛い事もたくさんあった。


悲しい事もたくさんあった。


でも今、僕は最高に幸せを感じている。


言葉にはできないくらい大きな幸せ。


広くて包みこまれるような幸せ。






今でも時々思う。


ドラえもんは元気にしているのだろうか・・と。


そんなことを考えても仕方がないのだろうな・・とは思うけど。










ふと、チャペルの裏側にある大きな植木に目が留まった。






今、そこで何かが動いたような気がした。






・・驚いた。






なぜなら、それは、青くて、どことなく丸みを帯びた形をしていたからだ。










まるで・・










困惑する。










でも・・・










・・まさかね。










疲れているのかもしれない。










・・多分そうだ。










疲れているんだ。










彼女の顔を見たくなって顔を横に向ける。










同時に彼女も僕の方に顔を向けたようだった。










目と目が合う。










彼女のその目の中にも、


















僕と同じように驚きと困惑の色が浮かんでいた・・























(了)





Wednesday, July 17, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0002




[前回 0001 はこちら]


 ドアが開き、ひとりの女性が現れた。年齢は50前後かな。ショートカットで少しぽっちゃりしているけど、太っているほどではない。茶色い髪色で丸顔。事前に資料をもらっていたので、これからお世話になるホストファミリーのジェーンだとすぐに分かった。

 確か、ジェーンには子供が2人いるって書いてあったな。ファーストフードで働いている長女、エミリーと、大学生で長男のリチャードだ。ご主人はいない。離婚したのか死別したのか、もしくは他の理由があるのか・・。

 簡単に挨拶をすませる。ジェーンが僕に家の中に入るように言った。玄関のドアを通り抜けて家の中に入る。初めて入るホストファミリーの家。静かだ。他には誰もいないのかな。なんとも言えない。ホームステイってどんな感じなんだろう。娘さんと恋に落ちちゃったりとか?・・いや、まあ、それは無いか。それに僕には気になっている人がいる。とにかく、これからお世話になる家。楽しみだ。

 ジェーンはまず僕のために用意してくれた部屋に案内してくれた。中に入ると6畳くらいの部屋で、ベッドとタンス、それから机が置いてあるのが見える。「荷物を置いたら、キッチンルームに来て」と言い残しジェーンは去って行ってしまった。とりあえず机のすぐ横にスーツケースを置く。ロックを外し、ふたを開け、中からお土産を取り出す。成田空港の中にあるスターバックスで購入した日本っぽい柄のタンブラーだ。喜んでくれるかな。

 ふと、机の上の方の壁に紙が貼ってあるのが目に留まった。手書きで「Welcome, Tetsu!」と書いてある。こういうさりげない演出って好きだな。なんだか嬉しい。

 さて、キッチンルームに行ってみよう。場所は分かる。さほど大きな家ではないし、玄関からこの部屋に来る途中に横に見えたから。

 部屋を出て右手に進む。廊下の突き当りを左に曲がるとリビングルームがある。その先がキッチンルームだ。

 キッチンルームに着くとジェーンが待っていた。テーブルの上にスープが用意してある。白っぽいスープ。なんだろう。クラムチャウダースープか何かかな?「飲んで」と言われたので飲んでみる。うん、温かくて美味しい。やっぱりクラムチャウダーだ。ホタテの良い香り。外が寒かっただけに、身体がポカポカしてくるのを感じる。ほんとに美味しい。

 聞くところによると、普段はジェーンがすべての食事を作っているとのこと。でも今日は息子のリチャードが夕食を買いに行っているらしい。もう少ししたら帰って来るのではないかって。

 外がだんだん暗くなってきた。雨は降っているのか降っていないのか分からない感じ。

 リチャードを待っている間に、ジェーンが家の中を簡単に案内してくれた。
 この家は少し構造が変わっているなと思う。まず、玄関が2階にある。1階はお店か何かみたいだったから、多分この家は借家なんだと思う。そして玄関の他に家の出入り口がもうひとつ。キッチンルームにあるドアから外に出ることができるテラスだ。このテラスには階段があって、それを降りると外に出ることができる。テラスには屋根付きの東屋みたいなのがあって、テーブルと椅子が置いてある。灰皿が置いてあるので、家族の誰かがタバコを吸うのかもしれない。
 僕の隣の部屋が長男リチャードの部屋。そしてその隣が長女エミリーの部屋とのこと。ジェーンの部屋はキッチンの近くにある。バスルームは僕の部屋の比較的近くにある。

 そうこうしているうちにリチャードが帰ってきた。大きな袋を2個持っている。少しやせ気味だけど、はっきりした顔付きでモテそうな感じ。グッチの帽子をかぶってるのがちょっぴりキザっぽいなあ。かといって、生意気そうとかそういうのではない。・・ん?もうひとりいるぞ。姉のエミリーではない。男性だ。リチャードと同じくらいの年齢の男の人。友達かな?眼鏡をかけていて背はリチャードよりも高い。利発そうでインテリっぽいイメージ。多分、リチャードの友達だと思う。

 両方ともごく普通の青年に見える。まあ、僕はカナダに着いたばかりだから、そこに暮らしている青年達がどんな感じなのかは全然知らないんだけど、なんとなくそう見える。なんとなく性格が良さそうに見える。見た目がそう見える。んー、まー、そんなもんでしょ。

 ふたりに挨拶をする。やはり、もうひとりはリチャードの友達だった。名前はジョニー。リチャードと同じ大学に通っているらしい。ジェーンのことも良く知っているみたい。

 リチャードとジョニーがテーブルの上に食事を並べる。スパゲッティ、ソーセージ盛り合わせ、ローストチキン、ピザもある。うーん、良い匂い。美味しそうだ。
 食事の準備が終わり、みんながテーブルを囲んで椅子に座る。長女のエミリーは仕事に行っていて、帰ってくのはもう少し遅くなってからじゃないかってジェニーが言ってる。

 初めてのカナダでの夕食。バンクーバーに住むホストファミリーと一緒に食べる夕食。とても美味しい。これがホームステイというものなのかな。こういう感じで一緒に食事をしながら毎日おしゃべりできるなら、英会話力がアップするのも早いだろうなって思う。

 ・・・と思ったのも束の間。

 リチャードが何か話しかけてきた。一瞬「え?」って思った。

 え?え?

 リチャード、君はいったい何語を話してるんだ?


(つづく)


[次回0003はこちら]

* 物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です。




Thursday, July 4, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0001





 真実は小説よりも奇なり、か。実際のところどうなんだろうね。

 そう言えば、今までバンクーバーに留学していた時の話をブログとかに書いてなかったなーって思って。

 忘れないうちに記録に残しておこうと思うんだ。(少しだけ小説風に)


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2010年11月6日(土)


 バンクーバー空港に到着した。カナダ西岸、ブリティッシュ・コロンビア州にあるとても綺麗で近代的な国際空港だ。

 成田空港から何時間くらい掛かっただろうか。覚えてない。7時間か、9時間か。多分それくらいだ。Air Canadaの飛行機の中は半分が外国人、半分が日本人、みたいな感じだった。


 ボーディング・ブリッジを渡り空港建物内に降り立つ。初めての空港。初めての国。どこの国に行っても思うけど、匂いが違う。その匂いをかぐと「海外に来た!」って実感できる。ワクワクする瞬間。

 通路を歩き、入国審査のエリアに向かう。海外に来た日本人が空港で一番緊張するのはこの入国審査だろうなって思う。でも、今まで審査官から質問されたことってほとんどないなーとも思う。多分、今回も何も聞かれないのではないか。

 パスポートと入国カードを渡す。審査官はにっこりしながら、いや、実際ににっこりしたのかどうかは分からない、多分、しかめっ面だったんだと思うけど、何かを聞いてきた。一応、分かる範囲で回答する。その後もいくつか質問された。滞在期間の予定が3週間。それなりに長いので色々聞かれたのかもしれない。英会話スクールに長い間通っていて良かったなって心から思う。

 荷物を受け取り、税関を抜け、到着ロビーに出る。本当に綺麗な空港だ。まあ、空港なんてどこも綺麗なんだけど、なんか調和が取れているというか、、なんだろうね、カナダってこういうところなんだろうなって思う。

 あ、そうだ、飛行機の中で財布の中に2千円しか入ってないことに気付いたんだった。カードがあるから良いけど。とりあえずATMとかないかなって探してみる。近くにはないか。まあいいや、あとで。とりあえず待ち合わせ場所に向かわないといけない。


 今回の短期留学は新宿にある「留学ジャーナル」で手配してもらった。ホームステイ先も自分の趣味や好きなものから合いそうな家庭を選んでくれた。ステイ先の審査基準もしっかりしているようで、変な家庭とかは多分無いんだと思う。もちろんホームステイだけでなく、シェアハウスや寮、アパートなんかも選べる。国や地域、語学学校も数多くの選択肢の中から自分に合ったものを選べる。僕がバンクーバーを選んだ理由は、そこで話されている英語がアメリカ東海岸で話されている英語とほぼ同じ発音で訛りがほとんど無いこと。それから、バンクーバーは美しい街と聞いていたし、一度は行ってみたいと思っていた場所だからだ。


 さて、待ち合わせ場所に着いた。現地スタッフの方と留学生である日本人が20名ほどいる。

 現地スタッフの方から簡単な説明を聞いて、滞在先ごとに5名ほどのグループに別れてワンボックスカーに乗る。同乗者は僕のホームステイ先があるウェスト・バンクーバーとその隣にあるノース・バンクーバーというエリアに滞在する人たち。初めてホストファミリーに会うので、みんな緊張しているっぽい。もちろん僕もドキドキしている。でも数日前に日本からホストファミリーに電話をしておいたので、(事前のメールのやり取りの中で、良かったら電話ちょうだい、みたいのが書いてあったから、)そこまで緊張はしてないのかも。きっと英語を全く話せない状態で留学に来ていたら、死ぬほど緊張していたんだと思う。そういう意味では僕は幸運だ。


 車窓から眺めるバンクーバー市内。夕暮れ時で曇り空。軽く霧雨っぽいのが降っている。11月初旬の冷えた空気の中で静かにたたずむ街並みは、なんだか哀愁感みたいなものが漂っている。流れていく景色を眺めながら、とうとうここまで来たんだなって思う。


 海外留学 ―――。たった3週間とはいえ、海外に滞在して英語を勉強することは僕のひとつの夢だった。仕事に追われていた毎日。長かった入院生活。退院してからも何もやる気がおきない生活が続いていた。ただ無駄に流れていくだけの時間。まさかまたこうして英語を勉強し直そうと思える日が来るとは思わなかった。今こうして、語学学校に通うためにカナダにいるという事が信じられないくらいだ。人生って不思議だな。今僕は幸せを感じている。喜びから来るような大きな幸せではないけど、心の中に静かに染み入ってくるような幸せ。包みこまれるような静かな幸せ。

 もし英会話スクールに通うことを決めていなかったら、もし10年前のあの偶然的な出来事がなかったら、今こうして僕がここにいることもなかっただろうなって思う。きっと違う人生を歩んでいたことだろう。もしかしたら結婚していて、子供もいて、もっと幸せな家庭を築いていたのかもしれない。でもどうなっていたかなんて実際には分からない。だから、そういうことを考えるだけ無駄なのかもしれない。今僕はここにいる。それだけで十分だ。それだけで十分幸せだ。人生って本当に不思議だね。


 最初のひとりが降りた。またどこかで会えるかな。


 ふたり目が降りた。玄関の呼び鈴を押すのが見えた。


 次は僕の番だ。緊張しているけど、昂揚感もある。きっと色々と楽しい事が待っているはずだと思う。様々な出会いもあるだろうと思う。どんな人たちに出会えるのか。どんな事が起こるのか。本当に楽しみだ。


 ホームステイ先の家に着いた。車を降りる。

 今は緊張感はあまり感じてない。勇気が湧いてくる感覚。不思議な感覚。

 玄関の呼び鈴を押す。


 こうして僕のバンクーバー留学が始まった。


(つづく)
物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です




Wednesday, June 5, 2013

Latest and previous my DJing at RMC



These following videos are the latest and previous my DJing at the dance event RMC which has been holding at CAVE in Koenji, Tokyo.  The 1st one is at "RMC - Hard House Summit GW Exclusive Limited" held on April 28 and the 2nd one is at "RMC - Spring Festival 2013" held on March 19, 2013.  As you can see, I spun Uplifting/Euphoric Trance at both parties.  Please enjoy my DJing by watching the videos.








By the way, I am sorry to tell you this, but the RMC was changed to an event managed by CAVE from being managed by DJ MINORI who is an organizer of RMC itself.   Accordingly the style of RMC also was changed.  From Trance music to various music such as Techno for the main genre of RMC.  I feel so sorry for it because the RMC had been started as the Trance and Hard House dance event.  As the result, I decided to be away from RMC.  But I will keep watching the RMC and hope it will be greater event.  I really appreciate the RMC.

Good luck and God bless you, Minori-kun.