Saturday, August 17, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0003





[前回 0002 はこちら]


 リチャード、いったい君は・・

 君が話している言葉は・・・何語なんだ?



 いや、、英語なんだろうけど、、


 ・・ゴニョゴニョゴニョとしか聞こえないぜ。


 もちろん、リチャードは英語を話しているんだけどさ。早口なのか、あまり抑揚をつけないのか、こういのが普通のカナダの青年の話し方なのか、正直言って何を言っているのか分からない。きっと、母親のジェーンは、ゆっくり、そして分かりやすい単語を使って話してくれているんだろうなって思う。
 リチャードの友達のジョニーもリチャードと同じような喋り方だ。でもリチャードよりは聞き取りやすい気もする。
 このわずか3週間の留学で、彼らと普通に会話できるようになるのだろうか。少し不安だな。でも、明後日、月曜日から語学スクールに通い始める。スクールだけではない。ここはカナダだ。どこに行っても英語だ。24時間ずーと英語を使って暮らさないといけないわけだ。きっとそれは僕の英語力を鍛えてくれるはず。うん。きっとそうだ。とにかく、これからが楽しみなんだ。

 食事が終わる。リチャードやジョニーともとにかく話をしてみる。なんとなく通じているみたい。会話っていうのは文章や文法、発音なんかが完璧でなくても意外と通じるのかもしれない。表情、声の抑揚、そして身振り・・。そう。最悪、知っている単語を並べるだけでもそれなりに通じたりするんだよね。うん。まー、それは僕が日本で英会話スクールに通っていた時なんかに感じていたことなんだけども、それってきっと本当だ。

 リチャードとジョニーが、これから家の近くを案内してくれるって言ってる。
ちょっとブラブラして近くのバーにでも飲みにでもいかないかって。もちろん行くさ。初めて訪れた場所だもん。色々なところに行きたいよ。

 部屋に戻って外出する準備をする。雨はやんでいるみたいだった。もう外は真っ暗だし、だいぶ寒くなっているんだろうな。少し厚めのコートを着て行こう。

 リチャードとジョニーと一緒に外に出る。うわー、やっぱり寒い。

 家の正面は比較的大きな通りだ。と言っても、車がひっきりなしに走っているような道ではない。夜だからなのかもしれないけど、車は比較的まばら。1台も走っていない時間の方が多い感じ。この道沿いに色々なお店が並んでいる。雑貨屋もあればレストランもある。だいたいが2階建てくらいの建物だ。周りを見渡してみても、高いビルとかは見えない。多分、ここ、ウェストバンクーバーは郊外という言葉が似合う街なんだと思う。

 道の反対側に渡り、3人並んでぶらぶら歩く。綺麗な街並みだなって思う。

 リチャードが、もう暗いし、明日は日曜日なので、家から少し離れたところに行くのは明日にしようって言ってる。バンクーバー市内のメインエリア(ダウンタウンと呼ばれているらしい)にも連れて行ってくれるという。だから今日はバーに行くだけにしないかって。寒いし。
 うん、そうだね。それが良いと思う。
 明日が凄く楽しみだな。街中を彼らと一緒にこうして歩くだけで楽しいのだから、明日はもっと楽しい事だろう。

 バーに着いた。こじんまりとしているけど落ち着いた感じ。アイリッシュパブとかってこんな感じじゃなかったっけ?まー、そんな感じの落ち着いた感じ。心地良い空間。
 テーブルに座りメニューを見る。英語オンリーのメニュー。英語オンリーの店内。英語オンリーの街並み。英語オンリーの人々。あー、海外にいるなって実感できる。日本にいたら決して味わうことのできないこの感覚とこの気持ち。ワクワクというか高揚感というか、なんというか、とにかく幸せな気分。

 何を飲もうか。とりあえず、雰囲気が良いので・・カクテルとか頼んじゃおうっか。色々ある。何にしよう。迷うな。
 しばらくして店員がやって来る。ジョニーはビールを頼んでいる。リチャードはオレンジジュースか。飲めないのかな?飲まないのかな?僕は・・ キューバリブレにしよう。

 すぐにドリンクが運ばれて来た。
 みんなで乾杯する。あ、やっぱり「チアーズ」って言ってる。日本にいても、英会話スクールのパーティなんかでは、みんな「チアーズ」って言ってたけどさ、これは本場の「チアーズ」だよね。面白い。

 カクテルを飲む。あー、良いね。うん、良い。この瞬間、この時間。色々な事が頭をよぎる。
 今日はとても素敵な一日だった。明日は一体何が起こるのだろうか。目の前にいるふたりがバンクーバーで一番発展しているエリア(ダウンタウン)を案内してくれるという。楽しみだな。バンクーバーには他にも色々と面白いエリアがあるらしい。きっとこれから、そういう様々な場所に行ける事だろう。初めて訪れる場所。行ったことのない場所。知らない場所。これから知ることになる場所。

 バンクーバー。これから3週間過ごすことになる街は一体どんな街なのだろうか。
 バンクーバー。これからいったい何が待ち受けているのだろうか。
 きっと素晴らしい体験が待っていることだろう。素晴らしい人達に出会えることだろう。

 今夜はぐっすり眠れるかな。
 日本を出発する前に主治医と話して、薬を持っていかなくても良いってことになった。もう大丈夫だろうって。夜もちゃんと眠れているようだからって。
 先生には本当にお世話になった。その先生が別れ際に、子供のような目をして「留学、楽しんできてね」って言ってくれた。嬉しかったな。その言葉と気持ちに感謝。

 再び、色々な事が頭をよぎる。

 何が自分の状況を変えたのか・・。

 何が僕の今の現状を作ったのか・・。

 そのうち機会があったら話そうかな・・って思う。


 明日は朝から一日、バンクーバー市内観光だ・・。

 何が待ち受けているのか・・、どんな人達と出会えるのか・・。


 色々な事が・・ 頭をよぎる・・


 まだ・・ 酔ってはいないと・・ 思うけど・・


 あくびがでる。


 明日が・・ 楽しみだな・・


 まだ・・ 酔ってはいないと・・ 思うんだけど・・


 再び、あくびがでる。


 なんだか・・ 今夜はぐっすり眠れそうだ・・


(つづく)


物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です




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