Wednesday, July 17, 2013

【小説】 バンクーバー留学物語 - 0002




[前回 0001 はこちら]


 ドアが開き、ひとりの女性が現れた。年齢は50前後かな。ショートカットで少しぽっちゃりしているけど、太っているほどではない。茶色い髪色で丸顔。事前に資料をもらっていたので、これからお世話になるホストファミリーのジェーンだとすぐに分かった。

 確か、ジェーンには子供が2人いるって書いてあったな。ファーストフードで働いている長女、エミリーと、大学生で長男のリチャードだ。ご主人はいない。離婚したのか死別したのか、もしくは他の理由があるのか・・。

 簡単に挨拶をすませる。ジェーンが僕に家の中に入るように言った。玄関のドアを通り抜けて家の中に入る。初めて入るホストファミリーの家。静かだ。他には誰もいないのかな。なんとも言えない。ホームステイってどんな感じなんだろう。娘さんと恋に落ちちゃったりとか?・・いや、まあ、それは無いか。それに僕には気になっている人がいる。とにかく、これからお世話になる家。楽しみだ。

 ジェーンはまず僕のために用意してくれた部屋に案内してくれた。中に入ると6畳くらいの部屋で、ベッドとタンス、それから机が置いてあるのが見える。「荷物を置いたら、キッチンルームに来て」と言い残しジェーンは去って行ってしまった。とりあえず机のすぐ横にスーツケースを置く。ロックを外し、ふたを開け、中からお土産を取り出す。成田空港の中にあるスターバックスで購入した日本っぽい柄のタンブラーだ。喜んでくれるかな。

 ふと、机の上の方の壁に紙が貼ってあるのが目に留まった。手書きで「Welcome, Tetsu!」と書いてある。こういうさりげない演出って好きだな。なんだか嬉しい。

 さて、キッチンルームに行ってみよう。場所は分かる。さほど大きな家ではないし、玄関からこの部屋に来る途中に横に見えたから。

 部屋を出て右手に進む。廊下の突き当りを左に曲がるとリビングルームがある。その先がキッチンルームだ。

 キッチンルームに着くとジェーンが待っていた。テーブルの上にスープが用意してある。白っぽいスープ。なんだろう。クラムチャウダースープか何かかな?「飲んで」と言われたので飲んでみる。うん、温かくて美味しい。やっぱりクラムチャウダーだ。ホタテの良い香り。外が寒かっただけに、身体がポカポカしてくるのを感じる。ほんとに美味しい。

 聞くところによると、普段はジェーンがすべての食事を作っているとのこと。でも今日は息子のリチャードが夕食を買いに行っているらしい。もう少ししたら帰って来るのではないかって。

 外がだんだん暗くなってきた。雨は降っているのか降っていないのか分からない感じ。

 リチャードを待っている間に、ジェーンが家の中を簡単に案内してくれた。
 この家は少し構造が変わっているなと思う。まず、玄関が2階にある。1階はお店か何かみたいだったから、多分この家は借家なんだと思う。そして玄関の他に家の出入り口がもうひとつ。キッチンルームにあるドアから外に出ることができるテラスだ。このテラスには階段があって、それを降りると外に出ることができる。テラスには屋根付きの東屋みたいなのがあって、テーブルと椅子が置いてある。灰皿が置いてあるので、家族の誰かがタバコを吸うのかもしれない。
 僕の隣の部屋が長男リチャードの部屋。そしてその隣が長女エミリーの部屋とのこと。ジェーンの部屋はキッチンの近くにある。バスルームは僕の部屋の比較的近くにある。

 そうこうしているうちにリチャードが帰ってきた。大きな袋を2個持っている。少しやせ気味だけど、はっきりした顔付きでモテそうな感じ。グッチの帽子をかぶってるのがちょっぴりキザっぽいなあ。かといって、生意気そうとかそういうのではない。・・ん?もうひとりいるぞ。姉のエミリーではない。男性だ。リチャードと同じくらいの年齢の男の人。友達かな?眼鏡をかけていて背はリチャードよりも高い。利発そうでインテリっぽいイメージ。多分、リチャードの友達だと思う。

 両方ともごく普通の青年に見える。まあ、僕はカナダに着いたばかりだから、そこに暮らしている青年達がどんな感じなのかは全然知らないんだけど、なんとなくそう見える。なんとなく性格が良さそうに見える。見た目がそう見える。んー、まー、そんなもんでしょ。

 ふたりに挨拶をする。やはり、もうひとりはリチャードの友達だった。名前はジョニー。リチャードと同じ大学に通っているらしい。ジェーンのことも良く知っているみたい。

 リチャードとジョニーがテーブルの上に食事を並べる。スパゲッティ、ソーセージ盛り合わせ、ローストチキン、ピザもある。うーん、良い匂い。美味しそうだ。
 食事の準備が終わり、みんながテーブルを囲んで椅子に座る。長女のエミリーは仕事に行っていて、帰ってくのはもう少し遅くなってからじゃないかってジェニーが言ってる。

 初めてのカナダでの夕食。バンクーバーに住むホストファミリーと一緒に食べる夕食。とても美味しい。これがホームステイというものなのかな。こういう感じで一緒に食事をしながら毎日おしゃべりできるなら、英会話力がアップするのも早いだろうなって思う。

 ・・・と思ったのも束の間。

 リチャードが何か話しかけてきた。一瞬「え?」って思った。

 え?え?

 リチャード、君はいったい何語を話してるんだ?


(つづく)


[次回0003はこちら]

* 物語は事実にもとづいていますが、登場人物名・団体名は仮称です。




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